間違いだらけの人口転出超過対策

 2023年の人口移動報告で、広島県の転出超過数が3年連続で全国最多となりました。

 この手の報道を受けて、いつも思うことがあります。

 まず、多くの人がこの数字を勘違いし、間違った情報を得ている。最大の間違いが、広島県は人口の流出が全国で最多だ」というもの。これ、完全な間違いです。「転出超過」は全国ワーストですが、「人口流出」が全国ワーストな訳ではありません。これはこのブログの2022年12月25日付の記事で、こう書いています(こちら)。

 転出者数だけを見るなら、北海道や福岡県の方がはるかに多い。「いやいや、元の人口が違うだろ」と言われるかもしれませんが、人口に対する割合を見ても、宮城県や福岡県の方が転出率が高い。広島県は、決して転出者数が多い訳ではないのです。(「少ない」とも言えませんが)

 じゃあどの数値が悪いのか。転入者数が他の都道府県と比較して少ないのです。つまり、野球の試合などに例えるとするならば、「失点が多いイメージがあるが、他県と比較してそう多い訳ではない。問題なのは、点が取れていないことだ」と言うことになります。

 

 一応、数値を上げておきます。まず、2021年の数字。

次に、2022年の数字。(2023年の数字はネット上では見つけられなかった…)

 もう一度言います。広島県は、「転出者」が飛びぬけて多い訳ではないのです。人口の流出が激しいのは全国共通(だから東京一極集中が加速する)。宮城だとか福岡だとか、他の地方中枢県は、「他地域からの転入」で流出分をカバーしているのです。

 もう一つ言っておくと、転出超過数が全国ワーストとなっている広島県ですが、これを人口当たりの割合で表すと、広島より酷い県は多くある。広島県は元々の人口が280万人と、地方の県の中では大きい方なので、どうしても数値自体が大きくなってしまう傾向があります。

 

 じゃあ、広島にはなぜ「他地域からの転入」が少ないのか。ネット上の拾いものですが、こんなものを見つけました。各地方から、3大都市圏+札仙広福への人口流出の割合がどうなっているかを表したものです。

札幌は北海道全域で、仙台は東北地方全域で、福岡は九州全域で、それぞれ圧倒的求心力を持っています。一方の広島は、求心力があると認められるのは広島県内、島根県山口県東部ぐらい。四国なんて全然とりこめていません。「そりゃ、転入者数が限られるよね」という感じです。

 

 ここで、「だから広島はもっと人を引きつける努力をしろ。札幌、仙台、福岡と比較して都市の魅力に欠けるんだ」とか言う人がいますが、私はそうとは思いません。実際、ここ数年、広島駅前を中心に再開発がガンガン進み、サッカースタジアム等も出来ました。努力はしているでしょ。それでも転入超過が3年連続で全国ワーストですよ。他の都道府県は、どこも広島以上に人を引きつける努力をし、再開発も広島以上に盛んだとでも言うのでしょうか??

 広島の求心力が低い理由。これは結局は立地条件です。岡山や鳥取の人がなぜ広島ではなく関西に向かうのか。山口の人がなぜ福岡に向かうのか。「広島に行くぐらいなら、ほぼ同じ所要時間で関西(福岡)にいけるのだから、それならより大都市に行きましょ」ってことです。北海道や東北地方、九州の各地域では、選択肢が「身近な中枢都市か、東京か」ぐらいに選択肢が狭まる。これは札幌や仙台、福岡からすると強みです。その強みが広島にはない。これが最大の要因です。

 

と、まあ、現状を分析してみましたが、「だからどうすれば良いの?」と言われたら、私もなかなか答えを見つけ出すことは出来ません…。ただ一つ、先ほどの図を見て思いましたが、松山を中心とした愛媛県の取り込みが、予想以上に低いですね…。ここは開拓できる余地があるかもしれません。具体的には、広島~松山間のアクセス改善。スーパージェットやフェリーの運航に補助を出し、運賃を半額程度に抑えるだとか、便数を増やすだとか、考えて良いと思います。もっと簡単なところから言うと、都心や広島駅から広島港へのアクセス。バスなら15分程度で行ける距離を、現状はみんな路面電車に乗って30分かけてノロノロと移動しています。リムジンバスでも走らせたら良いのに、と思うのですが、いかがでしょうか。

 

【おまけ】都市の魅力

 この手の話になると、多くの人が「だから広島は都市の魅力を磨かなければならない」と必ず言います。都市の魅力が向上しても必ずしも定住者が増えるわけでもない、というのは上述のとおりですが、ただ、都市の魅力を磨かないと、今以上に衰退していくことも確かでしょう。でも、都市の魅力って何でしょうね。

 色々な人と話すと、結局は、繁華街が楽しいこと、日常的な遊び場(買い物)が充実していること、美味しい飲食店が日常的にあること、徒歩圏内にコンビニやスーパーがあること、公共交通機関がそこそこ便利なこと、オフィスは綺麗で、特にトイレ等が衛生的なこと、などかなと思います。

 よく、「大規模なコンサートが開催される会場があれば」とか言いますが、最近の子は、みんな福岡でも大阪でも、ガンガンコンサート行きます。別に「広島で開催されれば広島に住むようになる」というものでもないでしょう。テーマパークなども同じです。

 あと、都市開発系のブログのコメント欄とかでよく見かける、「近代的なビルが建ち並び、超高層ビルが出来ると都会っぽくなり、街の魅力が向上する」などと言う意見は「何を言わんや」みたいな感じですね。典型的な田舎者のおっさんの発想だと思います(笑)。「何を言うんだ。東京では、港区女子とか言って、タワマンでの華やかな暮らしに憧れる女子も多いじゃないか」とか言われるかもしれませんが、あれは「高層ビル」に憧れているのではなく、「タワマンでの華やかな暮らし」に憧れているもの。地方都市によくある、「駅前にポツンとあるタワマン」が、港区のようなブランドになっている例があれば、ぜひ見せて欲しい。広島でも、駅前の高層マンションはただのマンションですが、ボロボロのエキニシはいつも賑わっています。大事なのは、「オシャレかどうか」「美味しいかどうか」「楽しいかどうか」だと思いますよ。

(いつぞやのエキニシにて。まあ、これを言うと元も子もないのですが、その都市での生活が楽しいかどうか、魅力的かどうか、なんて、結局はその人次第だとも思いますね)